アドリア海修行の旅 @ 待ちぼうけ    2007年9月号
H.I.
 ある日、ホテルで男は待っていた。「遅いな・・・」つぶやきながら待っていた。空しく時は過ぎていく。グラスは空だ。忘れてしまったのか・・・。もう誰もいなくなったレストラン。「来ないのか、それにしても・・・ 」 不在はかえって存在感を強くさせる。ありありと浮かぶそのシルエット。そっと漂ってくるうっとりするような香り。せめてもう一度触れてみたい、あのなまめかしいような、少し冷たいくらいの肌触り・・・いやいや忘れることなどできない。そんなことは不可能だ。引き離された生活など、考えるだけで、もう生きていく気力が失われていく。いまさらあきらめることなどできようか。憂いが顔にひろがり、ため息がでる。悪い想像ばかりが浮かび、心は休まらない。「なんて人生なんだ」また、ため息をつく。喉が渇く。

 ついに、男は、意を決して、胸も張り裂けんばかりの悲壮な調子で、ウェイターを呼ぼうとしたとき、隣の師匠が言った「頼んだワインが来てないのだけど!」

 ・・・ようやくの事で、おかわりにありついて二人で一息ついたのだったが、先に払ったにもかかわらず、また請求に来て、断固として「払った!!」と言わざるをえなかった。前払いを、その前に飲んだワインの代金と勘違いされたのだった。それででてこなかったのか、踏んだりけったり。これは、アドリア海に面した街、スプリットでの夕食でのことだった。

 教訓:どんなに飲みたくても、先に払ってはいけない。

 9月初旬、旧ユーゴ、アドリア海への旅。今回はアクシデント続きだった。関空発なので、羽田から大阪便の手配も希望と言ってあったのに、予約がキャンセルされてたのが出発2日前にわかって、あわてて自分で手配。関空で再会した師匠も、旅の前に、ケガと交通事故で数ヶ月リハビリ生活だったとか。

 トルコ航空での帰途。中華航空の炎上事故もあって、少しぴりぴりもしてたかもしれない。イスタンブールの空港で、師匠は、ベルトをはずされて検査を通ったところ、似たのが置いてあるだけ。なくなった、と係員に抗議したが、「自分で探せ」と言われて、仕方なくそのベルトをすることになった。「自分のよりいいベルトだからいいか」

 飛び立った飛行機は雲の中に突っ込んでゆく。窓の外は暗く、雷が光る。突然急下降し、大きな揺れがつづいた。思わず「オォー」と声が出てしまう。この飛行機大丈夫だろうなと思っていると、アナウンス。「当機は只今、大変気流の悪いところを飛んでいます。シートベルトをしっかり締めてください」とますます不安になるようなことを言う。

 次回はその波乱の旅の始末記

旅はベネチアから始まったが・・・

満潮時には海水が押し寄せ

サンマルコ広場脇では鳩にフンをかけられた
続き
ぽぽろしんぶんTOP ⇒