かしこいゆうびんやさん 呉 富夫



 丘の上には、一本の桜の木がありました。その桜の木
をはさむように、家が二軒ありました。赤い屋根と白い
壁の大きな家と、みどりいろの小さな家。
 大きな家には、ウサギのママと子供がふたりおりまし
た。男の子はグレー、女の子はピンキーといいました。
 いっぽう小さな家には、アライグマのポポロおばさ
んが一人でひっそりとくらしていました。
 からすのかっちゃんは、ゆうびんやさん。
とちゅうちょっとよりみちしていたので、すっかり暗く
なってしまいました。
 丘の上には、大きな家の大きな明かりと、小さな家の
小さな明かりがほんのりとみえています。
 どうして、みちくさしたかですって?
この丘の東にある、みずうみの主と、こんなことがあっ
たのです。
 みずうみのほとりで、大きなため息をついて、ぼんや
りとしていると、
「ためいきをつくと、しあわせがにげていくよ。」
 みずうみの主がかっちゃんにこえをかけました。
「丘の上の家の、はいたつがつらいんだよ」
「雨の日も、かぜの日もやすみっこなしだからね。」
「ちがうんだ」
 大きな家に届けるものはいっぱいあっても、小さな
家にとどけるものは、まったくないんだ。
「うわーい、やったあー」
 グレーとピンキーの元気な声。ふとふりかえると、
静まり返ったみどりいろの小さな家。ことりとも音が
しません。みどり色の家にはだれもたずねてきません。
もちろんゆうびんだって。かっちゃんは、ポポロおば
さんがかわいそうだったのです。
 みずうみの主は「うんむ」とうなってざわざわと波を
たてました。
「それは、きみのせきにんではないよ。」
 みずうみの主も「ふう」とためいきをつきました。
そのとき、ホトトギスが
「かっちゃんかけたか、かいたか、かけたか、かけ
たか、かいたか」
 とさわをこえていきました。
 みずうみの主とかっちゃんが顔をみあわせました。
 ポポロおばさんにてがみをかけばいいんだ。でも、
だれが?かっちゃんが……。



 お寺のかねがなりました。
 かっちゃんは、はじめておてがみをかきました。
「ずいぶんごぶさたしています。きのうは雨ふりで
たいへんでした。夕焼けがきれいでした。とおいし
んせきより」
 なんだかへんな気持ちでした。文もへんでしたけれ
ど、ポポロおばさんを思いえがいて、書いていると、
ほんとうにとおいしんせきになったようでした。
「まあ、いいや」
 かっちゃんはじしんはなかったけれど、ポポロおば
さんに、元気よく、
「ゆうびんでーす。」
 ポポロおばさんはてがみをよんだあと「ほっほっ」
とわらって、顔をバラいろにかがやかせました。
「ありがと、小さな、ゆうびんやさん」
 かっちゃんは、お礼をいわれてすっかりうれしくな
ってしまいました。はりきってみどりのお家にいくも
のだからグレーやピンキーもびっくりです。
「はい、とおいしんせきからてがみでーす。」
「ありがと、小さな、ゆうびんやさん」
「はっぱの毛虫がはっぱをよくたべて、はやくチョウ
チョになるといいですね」
「かきねのバラが咲きました。赤いバラ、白いバラ。
とげには気をつけましょう」
「たんぼのカエルの大合唱。今夜はカエルの嫁入り
でしょうか?」
 もちろんさいごは、「とおいしんせきより」です。
 夏がきて、丘にも秋風の吹くころ、かっちゃんが、
ふうーふうーいって飛んでくるとみどりの家の前に
立て札が立っていました。
『このたびきゅうに、ひっこすことになりました。
みなさん、いろいろありがとう。』
かっっちゃんあてに、てがみがありました。
「いろんな楽しいおてがみありがとう。おばさん
は、きょうとおいしんせきのとこにひっこすことに
なりました。わたしは、さびしくありません、それよ
りおとなりのグレーやピンキーのほうがどんなにさみ
しいかしれません。だって、ゆうびんがいっぱいだ
ったのは、パパといっしょにくらせないからなんで
す。みんなパパからのゆうびんだったんですよ。ち
いさなゆうびんやさん、わかったかな?かっちゃん
へ」
 かっちゃんは、こごえでいいました。
「ちょっとまちがっちゃった。」
 でも、ポポロおばさんのバラ色にそまったほっぺを
思いだし、「まあ、いいや」
 口をへの字に曲げて、
「ゆうびんでーす。」
 元気よくお空に舞い上がりました。


日頃より、「ポポロ」新聞楽しみに拝見しております。
私の小品に、ポポロおばさんが登場いたしました。
投稿いたしますので、ご一読を……。

     呉 富夫
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