紹介図書
・ 暗号解読) サイモン・シン 2007.7 74号
・ 「失敗学」事件簿 畑村洋太郎 2007.6 73号
・ 『悩み』の正体 香山リカ 2007.4 71号
・ 夢の痂(かさぶた) 井上ひさし 2007.3 70号
・ キューバ・コネクション アルナルド・コレア 2007.2 69号
・ 打ちのめされるようなすごい本 米原 万里 2006.12 67号
・ 冬の水練 南木佳士(なぎけいし) 2006.11 66号
・ 「朝食抜き!ときどき断食」 渡辺 正 2006.10 65号
・ 風の影 カルロス・ルイス・サフォン 2006.09 64号
・ 虫を食べる文化誌 梅谷 献二 2006.06 61号
・ ソウルで学ぼう 水野 俊平 2006.05 60号
・ 脱出記 スラブォミール・ラウイッツ 2006.03 58号

新潮文庫(上・下) 
¥590、¥629

暗号、うむむ、あぶり出しの謎の文書であろうか?例の本の何ページ何行目の最初の文字をしめす数字列で連絡するスパイものであろうか?  古代エジプト文字を解読したシャンポリオンから始まって、紀元前のギリシャの暗号、カエサルの秘密文書、第二次世界大戦でのドイツのエニグマ暗号解読への国をこえた連携プレー(ポーランドからイギリス)、アメリカ軍のナバホ・インディアンの言葉をそのまま用いた『コードトーカー』秘話etc、ほとんど推理小説の世界が展開したかと思うと、バベッジの解析機関とかアラン・チューリングの『万能チューリング機械』が登場して、現代のコンピュータ誕生のきっかけと暗号の関係へと話が展開するのです。しかし、暗号解読できていること自体が秘密であったため、世界最初のコンピュータがアメリカのENIACでなく、イギリスのコロッサス機であったということもずっと隠されたままだったそうな。(実はもっと先に別に発明されてたという話もありますが)  さて、というわけで、下巻ではアリスとボブとイブが登場する公開鍵番号、現在のインターネットでの暗号方式の話と相成るのですが、(実はよくわからないので)誰か詳しい方に解説はお願いする次第。


小学館文庫 
\540

悩みもあれば、失敗もある、それがこの世の定めというもの。されば、くよくよと逃げ回ったりせずに、正面から堂々と勝負なのです。さあ、イメージトレーニング。失敗する、自分はダメだと思ったら、そうなってしまいがち。だから、しっかりと、うまくいく自分、技を成功させた自分を思い浮かべ、そののち、無心になって臨めば、いい結果も出ようというもの。いやいや、精神論というのではないのですぞ。ことほど左様に、人間というものはメンタルな生き物であるし、火事場の馬鹿力も発揮できるときもあるし、いまの自分にも、気がつかないいろんな潜在的な可能性があるのですから、現在だけで人を判断せずに、大きな視野で物事を見てみましょう。ハタムラ先生の人生相談。  ・・・ということを書いてあるかと思ってページを開いてみた人は、大ハズレ。きょうび、あいまいであればファジー、方程式で解けなければ複雑系、成功する道でなければ失敗学、大変まじめな書なのです。人は、成功からよりは、失敗から多くを学ぶもの。そう言えば、出会ったときはあんなにいい女(男)だと思ったのに、今は・・・。いえいえ、繰り返しますが、そういう本ではないのです。


岩波新書 
\700

みんなみんな、悩んでおおきくなったのに、悩みは尽きぬ。今の今まで、香山を「コウヤマ」と読むとばかり思っていたが「カヤマ」。なんと悩ましい事だ。  精神科医の現場を通して考えてみた、今日の日本の病状報告書。親の介護に疲れてウツ状態に・・・それを個人の悩みとして解決できるのだろうか、と悩んでしまう著者。競争競争と追い立てられ、余裕をなくし、周りと合わせるようにとのプレッシャー。 様変わりしてきた「悩み」。しかし、金がない私の悩みは終生変わらない?。


集英社 
\1365

鎌倉の山の中にある井上宅の裏の斜面には穴が掘ってあって、これは中世の横穴式の墳墓らしいですが、中は20畳ほどの広さがあり、氏は書庫に使っているとのこと。陰気な雨の6月真夜中に、その書庫で積み上げられた円朝全集やらプーシキンやらを前にしながら夜食をとっていると、なにやら不気味な物音・・・名作『人間合格』で太宰治をとりあげた著者の前に、その当人が現れて、あの世ともこの世ともつかない空間から話しかけられて、ヒュ〜ドロドロ、ドロドロ。いやこれは、別な本『太宰治に聞く』でしたね。
 太宰が生きた戦争から戦後への転換の時代を、庶民がどう生きたのかを、ちょっとふりかえってみると、こうだったのかと、そんな空気を東北の元地主の屋敷を舞台に、ときどきミュージカル仕立てで、やや皮肉っぽく笑い飛ばして、いやなことは忘れてしまおう、いやいっそなかったことにしてしまおう、などと言ってると落とし穴に、という、これは喜劇かつ予言書かつ怪談かもしれません。ヒュ〜、ドロドロドロ。


文春文庫 
\724

  キューバのスパイだって?なんだかさえない感じだと思うでしょう。さえないのです。スパイのお役ごめんで、アフリカから帰ってきたものの、すでに妻は他界していて、3人の子どもにはそっぽを向かれ、居場所がない。やっとのことで、改装中のビルの一室に、ねぐらを見つけたものの、ある日、子どもたちはハバナをあとにして、海路アメリカを目指して脱出してしまうのです。(90年代の経済崩壊時のキューバが舞台ですから)
 子どもが心配でたまらないこの元スパイ、船をちょろまかして、フロリダに渡ってしまい、ここから波乱万丈の物語のはじまり、はじまり。CIAとFBIを煙にまいて、潜伏先の街で、未亡人とその息子にヨットを操ってかっこいいところをみせたり(「シェーン」というわけ)、離れている3人の子どもを守るために、なけなしの知恵を絞っての奮闘努力が泣かせるのです。
 ロベルト、またはカルロス、または・・・いくつもの変名とパスポートを持った、かっこよくないスパイが動き回るうちに、アメリカと中米のねじれた関係や、フロリダの反カストロのキューバ人の本音やらが出てきて、最後は意外な結末に。ハードボイルドでもなく、007ジェームス・ボンドでもなく、ちょっと渋くて南国的な、まあ、ラムの味のする本だぜ。


文藝春秋 
\2286

 著者はガンのため、2006年5月に亡くなりました。残したのがこの書評集。いわば、旅行者にとってのガイドブック、料理のときのレシピ、ひょっこりひょうたん島の探検地図。  ほほう、とうならせる多彩な本、本。思わず付箋を用意する。その中には、書評集もあったりするので、これは、「入れ子構造」ということになります。414ページで取り上げてある斎藤美奈子『読者は踊る』を「本気で惚れた相手を口説くのは難しい」なんて紹介してますよ。「どんな言葉をもってしても、この胸の内を伝えきれなくてイライラする。」「ラブレターと同じで、・・・悶々と悩み抜いた末に書いては消し書いては消ししながら絞り出した」書評と書いてます。もう、ぞっこん惚れこんでしまったぜ、という感じですね。まさか、その書評集の中に本書の評はないだろうな・・・しかし、もしあったらと心配になり、その『読者は踊る』(文春文庫)を買ってみた。そうすると!なんと巻末の解説者は米原万里。「解説 最強無敵の毒舌評論家による書評本を解説する恐怖」と、この解説がまた、読ませてしまうのですぞ。  このほんがあれば、きっといちねんくらいは、ほんざんまいで、たのしく生きられるとおもいました。今回は、書評集を含む書評集の「かんそうぶん」でした(書評じゃないもんね)。  万里さん、楽しい本をありがとう。


文春文庫 
\780

 もうまもなく冬となる。冬とか寒さとかは苦手という人が多いが、子供時代だけであれば、生活の苦労とは別に、冬も雪も楽しむこともできるのかもしれない。特に、オホーツク海あたりは、晴天率も高く、冬というのは色彩豊かな華やかな季節でもある。
 さて、著者は『ダイヤモンドダスト』で第百回芥川賞を受賞した内科医。映画『阿弥陀堂だより』の原作者。自ら勤務する佐久総合病院の院長だった若月俊一を書いた『信州に上医あり』がある。
 多すぎる死を見届けているうち、自らが病に、ウツ病になってしまい、木をみればどれが死ぬのにいい枝振りかと考え、不整脈があれば突然死の恐怖に怯え、一人では外にも出られなくなってしまった時期を経て、ようやく回復するも、かつての気力体力は望むべくもないものとなって・・・。
 「心身の平穏に勝る人生の目標はもうない」、そんな著者が、「書きたいときに書きたいものだけを書」いて、「たいせつにしまい込んできた」「私物」のエッセイ集。
 文学者としては太宰治を、医者としては若月俊一をみつめながら、「太宰になくて、私にかろうじてあったものは、この、地に足をつけて生きるしたたかでたくましい老人たちとの直接の触れ合いだったのではないか」と直観し、病とつきあいながら細々と外来診療を続ける日々が、「生きている」それだけで本当にうれしいのだと、大きな字で書いてあるような本。
 冬になってはじめた水泳練習。著者の冒険の一歩の記。


講談社+α新書 
\780

 ここ何年もたびたび朝食抜きのスタイル。「本当はちゃんと食べたほうがいいんだよな。」と、ちょっぴりは「反省」しても、すぐに健忘症。
 ところがところが、「『朝食を抜くと太る』はウソ」「朝食を食べないほうが疲れにくい」「空腹で自然治癒力が高まる」などと刺激的な言葉が踊っている本書を見たとたんに、俄然自己正当化の理論的支柱に出会ったヨロコビに心を満たされ、読後すぐに、きっぱりと朝食抜きとなったのであります。
 「現代人は過食である」そうだそうだ、心当たりあるぞ。「日本でも、ヨーロッパでも、もともと昼・夜の2食が普通だった」ほほう、そうだったのか。「胃も腸も休息が必要。朝も食べると休む間がない」仕事を休むだけでなく、腸も休めるのか。「朝を抜いて病気になった例はない」とこう書いている著者は医学博士。むしろ、自分の病院では入院患者さんの朝飯を抜き、必要なら断食までして、病気を快癒させてきたそうな。
 「本当に朝食は食べなくてはならないのでしょうか。これについて一度は疑問を抱いてみるべきだと思います。」と書かれていたので、素直に疑問を抱き、朝食がわりに野菜ジュースとか。まあ、いつも食べてた人は、3週間くらいたたないと慣れないようですけど、最近脂肪がついてとか、ストレスから過食気味、もしくはダイエット!と考えている人は、だまされたと思って朝食抜きをやってみるのもいいかも。わりと無理なくできるしね。(いわゆる生活習慣病にも効果抜群とか。ただし、歩くとか運動も忘れないほうがええで。)



集英社文庫 
上・下 各\780

 もちろんですとも、『ダ・ヴィンチ・コード』は面白いです。ニュートンとかジャン・コクトーとかが秘密結社の一員だった、いやトップだった。その使命は?となれば、興味がわくのは必然。ダ・ヴィンチもそうだった。あの『最後の晩餐』をよく見てください、キリストの右(絵では左)にいるのは、どう見ても男ではない。彼女こそマグダラのマリアではないか。いやいやキリストは結婚していて、その妻が彼女だった。そればかりか子供も残していた、その秘密が代々受け継がれて、となれば、これはもちろん面白いに決まっています。
 しかしです。この『風の影』、これも『薔薇の名前』を彷彿とさせる知のミステリー。舞台はスペインはバルセロナ。そうそう、ガウディの奇怪な「サグラダ・ファミリア」教会のある、カタルーニャの古都。ピカソやロルカがたむろしたかもしれぬカフェ「四匹の猫(クアトロ・ガッツ)」のある街の奥まった一角に、忘れ去られた本が集まってくるという迷路の建物、通称「本の墓場」に「ぼく」は古書店をいとなむ父に連れられて行き、一冊の不思議な本と出合う。「風の影」という希本を開くと、そのストーリーをなぞるかのように起きる事件。劇中劇のように謎は謎を呼んで・・・。
毒舌のホームレス、フェルミンが「ぼく」の恋の指南役に、あるいは探偵役にと大活躍。果たして「風の影」という本をこの世から抹殺してしまおうという、不気味な人物から逃げきれるのか? 1930年代、内戦のスペインとその後の日常のなかに忍び寄る影を描いたサスペンス。
 バルセロナの街をこの本を読んだ後で歩けば、違った風景が見えてくるかもしれません。(行ってみたいなー)


創森社
\2400

 虫(昆虫)は、現在、名前のついている種類だけでも世界で100万種近くあり、全動物の種の過半数をしめています。その多さは、クモ類3万5000種、ダニ類4万種と比べてヒトを含む哺乳動物は約4000種ということからも、圧倒的な数を持っていることがわかります。
 著者は、この虫がどうして世界で圧倒的な数をほこるようになったのか、その繁栄のナゾを解くとともに、食用としても栄養が高く、将来の食料資源として有用であることを説いています。

 虫を食べるといえば、「イナゴ」や「蜂の子」ぐらいしか連想しませんが、この本を読むと、いかに多くの種類の虫が世界(特にアジア)では食べられているか、よくわかります。
 例をあげると、タガメ、バッタ、ヤゴ、イモムシ、ゾウムシ、アリ、ゴキブリ、クモ等です。そしてさまざまな料理法や保存法があり、病気を治すための薬としても使われています。
 こんなものまで食べているのかという感じを受けますが、しかし、それが世界では当たり前のように扱われているのを見ると、日本も将来発生するかもしれない食糧危機に備えて、研究しておく必要があることを実感します。


岩波ジュニア新書

\840

 「冬のソナタ」はじめドラマ・映画が日本で大人気の韓国。一方では、靖国、竹島、教科書を巡って不協和音も目立っている。
 そんなときこそ、現地に行って、普通の庶民の生活や日常に触れてみてはどうだろうというのが本書である。若者向けにかかれていて、料理店やショッピングの紹介はないけれど、近くて遠い国韓国の首都ソウルの、歴史と普段着の交流のチャンスを載せていて、一味違うガイドブック。

ソニー・マガジンズ
\2200

 南極・北極を除けば、シベリアのヤクーツクというのは世界でもっとも寒いところらしい。古くから、ロシアでは囚人はシベリア送りと決まっていて、皇帝に叛旗をひるがえしたデカブリストの乱の貴族とか、作家ではドストエフスキーも送られて、「死の家の記録」などををのこしている。零下50、60度の世界に、それでも人が生きて、馬なども仕事するとのことなので、いざとなれば結構人も動物もしぶといものなのかもしれない。
 しかしながら、ここが夏ともなれば30度くらいともなり、蚊が大発生するらしく、現地では、冬の寒さよりも恐れられているというから、わからないものである。大黒屋光太夫が漂流して、アリューシャン列島に流れ着き、苦難の末、ロシアにたどり着いてから、日本に帰ってくる途中で、馬の顔から血が流れ落ちるほど、シベリアの蚊は想像を絶する脅威だったらしい。(この辺は、椎名誠とか、「おろしゃ国酔夢譚」井上靖とかに詳しいです)
 満洲などで捕虜となった日本兵がシベリアの収容所で強制労働させられた頃、その少し前に、ポーランドが独ソ密約で占領され、やはり捕虜とされて多数の兵士がシベリア送りとなった事実があり、この書はその事件を題材にしている。
 強制労働25年の刑からの脱出を決意して、仲間数人と吹雪の夜に抜け出してからの、バイカル湖、モンゴル、ゴビ砂漠、チベット、ヒマラヤを越えてインドにたどり着くまでの、ノンフィクション。水もなく、食料もない砂漠で窮地に陥ったとき、ふとみかけたヘビにひらめいて、何匹も捕まえ渇きと飢えからまぬがれたり、中国奥地で貧しい農民に歓待されて助けられたりと、これは一気に読ませる書。

2003.8 29号以前の紹介図書
2005.6 49号以前の紹介図書
2006.1 56号以前の紹介図書
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