紹介図書
・ 仕事道楽 鈴木 敏夫 2008.08 87号
・ ロマンス 井上 ひさし 2008.07 86号
・ 極点飛行 笹本 稜平 2008.06 85号
・ 反貧困 湯浅 誠 2008.05 84号
・ 呼び寄せる島 又吉 栄喜 2008.04 83号
・ 生き地獄天国 雨宮 処凛 2008.03 82号
・ だいこん 山本 一力 2008.02 81号
・ ヤモリの指 ピーター・フォーブス 2008.01 80号
・ 騒動師たち 野坂 昭如 2007.12 79号
・ Excel 全機能Bible2002 村田 吉徳 2007.11 78号
・ 海底二万里 ジュール・ヴェルヌ 2007.10 77号
・ すばる望遠鏡の宇宙 海部 宣男
宮下 暁彦
2007.08 75号

岩波新書 
¥740

 アニメのヒットメーカー宮崎駿の影にいて取り仕切る実力者、プロジューサーの鈴木敏夫である。『映画道楽』を出した後、『仕事道楽』。道楽とは言いながら、その実は、毎回が真剣勝負。これが当たらなければ、その時はジブリも解散。背水の陣で臨んできたのである。
 宮崎駿のコンビである、名監督パクさんこと高畑勲とともに、今日のジブリアニメの仕掛け人が、2人との出会いから今日までのエピソードを語っているのであるから、ファンでなくとも面白い。
 一筋縄ではいかない、この2人に、ある意味では、その非常識さに惹かれてしまって、結局は会社まで設立して付き合うことになった記録。ところが、常識の枠を超えたところにいたのは、この2人だけではない。徳間書店での雑誌『アニメージュ』創刊時、企画部長尾形から、突然、創刊をまかせるから、2週間で出せと言われた話。「うちの息子がな、『ヤマト』が好きだからな」で、あとは、値段も、中身もまかせた。それで、やりあげて発売後3日で完売したというこの著者も、やはり並大抵の人間ではない。
 それに輪をかけて唖然となる人物が、徳間書店社長の徳間康快。文学作品を原作に娯楽映画を作るべく、『敦煌』『おろしや国酔夢譚』をプロジュース。著者にいわせれば、お金を借りまくって事業にはどんどん失敗した人で、経営者としてはどうか、となるのであるが、「金なんて紙だからな」と平然としていたそうである。チャン・イーモウの映画『紅いコーリャン』にもひそかに資金援助していた徳間は、ジブリのスタジオ建設で相談を受けると「いいことだ、やれ」、しかし金がないと言うと、「金は銀行にいくらでもある」と後押ししたという。
 痛快・豪快な人物と付き合ってきた鈴木敏夫の『道楽人生』記。


集英社 
\2000

 筆の遅い脚本家がいた。舞台に台本が間に合わなくて、公演がキャンセルされたこともある。遅筆堂などと陰口をたたかれたりする。それなら、よーし、脚本書きを主人公にした脚本を書いてやれ、劇中劇というのだってあるのだ、どーだ。(初日の直前に書き上げた、間に合ったじゃないか、演出家が公演延期の案をだした?とーんでもない!!)
 虚実とりまぜ、もう百年前に去った先輩をダシにして、「死人に口なし」、物書きの人生を白日の下にさらし、ついでに、弁明もしてもらうのだ、こっそりと、自分の代弁者として。かまうものか、そのうち、今度は自分が題材にされて、『ひょこりひょうたん島の作者のその後、遅筆記』などと、出せば出せ。丸めがねの出っ歯と、言わば言え。作家と妻の結婚期間3年1ヶ月と6日間。それまで、どんな風に呼び合ったかも、ぜーんぶ調べさせてもらってまっせ。
 「いとしいかわいい人、明るい明るいともしびさん、返事をくれないひとでなしさん、かわいくクダ巻く酔っ払いさん、二人といない戦友くん、尻尾のない子馬さん、黄金五十キロのかたまりさん、タフでたくましいドイツ娘さん、怒りっぽい子犬さん、いとしいおばあさん、すてきなうすのろさん、ぼくのおんぼろさん、しっぽのない犬さん、ごきぶりちゃん、可愛い野ねずみさん、ぼくの七面鳥さん、てんとう虫くん、ぼくの芦笛さん、マッコウクジラさん、蛙さん、お嬢ちゃん、ぼくのろくでなし、ぼくの上役さん、いとしい紅スズメさん」。どうだ参ったか。
 「これはオレのことか?」いぶかしげに、作家の写真が舞台を見おろす。


光文社文庫 
\7876

 飛行機が初めて飛び立ってから百年あまりで、今のようにごく普通に移動手段として利用できるようになったのだから、宇宙旅行というのもあと百年後には割りとポピュラーなものとなっているのだろうか。『2001年宇宙の旅』が描いたようには、月とか惑星に手軽にとはいかなかった現実はあるけれど。スペースシャトルはあまりにも高くついたため、NASAの次なる宇宙船計画オリオンではアポロ型の使い捨て方式となるらしい。月をめざして、有人部と着陸船部の2回に分けて地球軌道上に打ち上げてから、一つにまとめ、さあ出発。月の極にあるクレータには、太陽の光が決してあたらない部分があって、氷が存在してるようだと言われているので、月面基地としては、その辺が有力なそうだ。
 さて、「極点飛行」と言っても、本書の舞台は地球の南極。温暖化で溶け出して来ているとは言え、有り余る氷の大陸。地球に残された数少ない秘境の一つであるので、アドベンチャー小説にとって不足はないはずだが、いかんせん、人影はまばらである。いきおい、厳しい広大な自然と閉ざされた密室的状況との緊張感で迫ってくることとなる。さらに、南極領有を主張して、アリバイ的であっても、人が住んでいる状況を作っていることにしているチリとアルゼンチンが絡んで、南極チャーター便飛行士の、都落ちした主人公が巻き込まれる事件というのが、いかにもあっておかしくない設定である。もちろん、ヒロインもいわくありげな医者として登場し、チリ現代史のピノチェット独裁時代の暗部を通奏低音として、緊迫感が一層高まる。心憎い構成だ。
 ちなみに、まだ飛行機が一般的でなかった1930年代、ブエノス・アイレスからアンデス6000m峰越えの郵便飛行便の話は、サン=テグジュペリ作『夜間飛行』。ついでに読んでみては?


岩波新書 
\740

 「民営化」を英語にすると「privatization」となるそうだ。そうか、「私営化」「私企業化」ということか、と妙に納得できたのであった(まさか「私物化」ではないだろうな)。
 水道事業を民営化した南米の国で、雨水をためて生活用水に使うことまで有料にしようとして、暴動になったことがなかったっけ。ある時、空気さえ民営化されて、日本長寿空気鰍ェ人間・家畜・農産物それぞれに空気利用料金をかける。払えなければ、空気を止める、そんな日が来ないとも限らない。イラクでは、軍隊の民営化だって進んでるようだ。戦争の民営化というわけだ。政府の民営化、これもありかな。実はもう民営化されてしまっている? 税金はつまり、「受益者負担」の空間利用料である。払えなければ、すなわち、足を置ける地面がなくなり、地中深く吸い込まれてしまうだけ。
 そうそう、最新金融工学はなんでも証券化して、株式取引の対象にしているので、民営化された戦争も証券化できる。政治も民営化して選挙も証券化できる。天変地異も、これも民営化されてないビッグチャンスだ。サイクロン・大地震・噴火、なんでもあり。食料はすでに手中に収めてある、この実験結果が十分に生かせる。
 意外かもしれないが、貧困というのが、金のなる木なのだ。貧困の民営化、貧困ビジネスが大繁盛なのだ。「自己責任」キーワードの「うっかり足を滑らせたら、どこにもひっかかることなく、最後まで滑り落ちてしまう」『すべり台社会』化している日本。消費者金融(サラ金)、日雇い派遣、非正規労働。儲かってるのだ。
 やり手民営会社はつぶやく。ビジネスチャンスは待っていては来ない。だったら作ればいい。戦争も、飢餓も、貧困も。貧困バンザイ!


光文社
\2500

秘島:白砂の浜と満天の星。観光地化を拒む湧田島
琉球王朝時代の流刑地、湧田(わくた)島。船は那覇から2日に1便(午前10時発)。島の宿泊は一軒の木造2階建て民宿か離党振興センターのみ。人口320人、世帯数105。定期船桟橋のある外間と漁港のある北浜の2つの集落からなり、集落を結ぶ一本道と、その後完成した島の一周道路などがある。外間にある小中学校の近くには島唯一の信号機がある。また外間桟橋の待合所には売店のほかに喫茶店『熱帯魚』があり、食事のほかビール等のアルコールも注文可能。役場には住民課、人事課、納税課、企画課などがあり、現村長と総務部長は夫婦で勤めている。北浜には白い砂浜もあり、夜空の星は見事であるが観光業はなく、漁業が主産業。駐在署、診療所、民間療法の秘薬を扱う家もあり(2千円)、郵便も配達されている。火葬場はなし。
 やや薄れてきてはいるが、古くからの共同体の伝統も残り、ユタとよばれるシャーマン的な老婆がおり、5千円から1万円で、占いや故人の霊の声を聞くことができる。また長老が村長などを超えた存在として大きな存在感を持っている。島の実質的な運営はこの長老を含む有力者の非公式な集まり(通称「刺身会」。月一回)で決められている。土地や家屋の売買は事実上、島の出身者に限られている。離島・秘島。芥川賞作家の又吉栄喜(またよしえいき)の小説「呼び寄せる島」(光文社2500円)の舞台となったことで知られる。
 島に一軒だけの民宿は、1階に広い畳の間が一室と食堂・台所、2階に六畳間二室と十二畳の間一室。建物は昭和45年建築の家が改装されたもの。一人一泊二食で7千円程度。
 【追記】この民宿は、経営者が入院して売りにだされ、島出身の小説家・脚本家志望の26歳の青年が150万円で購入し、経営にあたっていたが、途中でスナックに改装。半年余りで撤退。現在は島の青年達の飲み会場として使用されているとのこと。民宿としては利用できないので、島での宿泊は役場に相談してからがよい。


ちくま文庫
\600

 妖しくも黒装束に身を固めた不敵な面構え、ずっしりと手にも重々しくも畏まり鎮座するところを、一瞬の隙を突きエイヤッとばかり取り押さえ、押し開きて見るに、@〔仏〕(梵語naraku奈落、niraya泥梨の訳)六道の一つ。現世に悪業をなした者がその報いとして死後に苦果を受ける所。贍部州(せんぶしゅう)の地下にあり、閻魔が主宰し、鬼類が罪人を呵責するするという。八大地獄・八寒地獄など、多くの種類がある。・・・じごく【地獄】、全3049頁中の1217頁上段左、しかと書き記すは、広辞苑第六版。付録に惹かれ、思わず手が伸びてしまい、気がつけばすでに支払い終わってしまっていたのであった。
 この付録というのが、正式な「付録」のほかに、「予約特典非売品」の付録「広辞苑一日一語」なる、たった218ページのものである。よくある話である、おまけがほしくて買ってしまうというのは。否、むしろ誉むべきか「実に見事な技である。あっぱれ広辞苑」。
 3月25日はとみると「お告げの祝日」「カトリック教会で、マリアの受胎告知を記念するための祝日」だそうである。
 そのような訳で(?)本書は、地獄に良く似た現世を生きながら、転機が訪れ生の手ごたえをつかんだお告げの書といえるのだ。
 では、天国も調べたほうがいいだろうか?いやいや、もう、地獄だけで十分。


光文社文庫
\914

 どんな商売でもやさしいというものはなく、役者などは、花道からでてきて一言せりふが言えるだけでも、大変な修行らしい。その一言を忘れて、一度引っ込んで出直したりすると、見てるほうは「何ですあれは」「せりふを忘れたんですよ。見込みありませんな、ありゃー、ダイコ、ダイコ」。大根というのは何と食べあわせても、あたるということがないので、あたらない役者は「大根役者」と呼ばれたらしい。
 ある時、「申し上げます。誰それ様がお見えでございます」の一言ばかりで飽きてしまった中村仲蔵という役者。せりふの練習などせずに、内職に精を出してしまい、いざ初日、その一言、肝心の誰それを忘れてしまった。そのピンチを、とっさの機転で切り抜けて見込まれて出世したという、これは先代林家正蔵(彦六)の人情噺『中村仲蔵』でした。
 それでは本日はこれにてお開き・・・ではなかった。
 かように、ダイコンというのは、ありきたりでつまらないもののように思われていながらも、その辛味、煮物にしたときの味に惹かれて、自分の店を出したとき、名を「だいこん」とした、これは「つばき」という主人公の、江戸の昔を舞台にした、下町の人情と江戸っ子の意気を描いた話題作だよ。「さくら」「かえで」の三姉妹で切り盛りする飯屋はどうなるのか?絶好調、山本一力。結構毛だらけ、猫灰だらけ。粋なネエチャン立ち○○○○○。さあ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。よし、値段も負けた。さあ、もってけドロボー。


早川書房 
\2200

 ヤモリとやらは壁でも天井でも歩き回ったり張り付いてるままでいることができるらしい。(「らしい」と言うのは、ヤモリを見たことがないので)。なぜこんな芸当ができるのかというと、大変微小な枝毛構造が手にあって、2ナノメートルの単位になると働く凝集力により、面とくっつくのだそうである。電子顕微鏡が登場してはじめてこうした構造がわかってきたとのこと。(うむむ、わかったような、だまされたような)いわゆるナノテクノロジーということで注目されてきた領域を自然(生物)という目でみると、不可思議な現象にあふれている未踏の分野となるのだろう。ハスの葉からヒントを得た超撥水性のガラス、逆の超親水性の二酸化チタン皮膜の自浄作用、クモの糸にならった繊維への挑戦とか面白い話が満載。
 なかでも、自然の中の折りたたみ構造の話題のところにある、折り紙の、特に「ミウラ折り」と呼ばれる折り方のエピソードは、実際に手で折ってみることもでき、楽しい。対角線の隅を引っ張れば展開できる地図の折り方ということで、目からうろこが落ちるような話だ。宇宙で使う太陽電池を発射時には小さくたたみ、使用時にはワンタッチで開く方法に応用されていて、英国折紙協会の絶妙の命名により、がぜん注目をあつめたとのこと。(ミウラ折りは、インターネットで検索してみるといろいろな折り方紹介あり)



岩波現代文庫 
\1000

 「野坂昭如ルネサンス」と銘打って、リバイバルシリーズで出ている一冊。なにやら騒然としていた時代を背景に、戦後のドタバタを泳いできてそれなりに稼いでいた甘い日々が忘れられずに、ひと騒動おこしてチャンスをつかもうという、ジャパニーズ・ドリーム物語。
「ニコヨン殺すに刃物はいらぬ。雨の三日もふればよい」の言葉どおり、出だしは三日続きの雨から始まる、大阪は釜ヶ崎のその日暮らしの有象無象。騒ぎをおこして、飯のたねにできぬかと思い巡らし、テレビのハプニング番組をかき回して、大当たりとなるやアメリカに渡って、大活躍、とって返して安田講堂にもぐりこんで、機動隊相手にまたひと騒動。
 時代を画した、野坂昭如の一大パノラマシリーズ。『好色の魂』『水虫魂』から始まり、『とむらい師たち』まで発刊済み。やや値が張るのが難。
 ところで、「ニコヨン」とは?日雇いの人を呼ぶのだが、なぜこの名なのか。当時の日給が240円(失業対策事業での話かもしれないが)で、つまり、百円玉二個、十円玉4個でニコヨン。そして、なぜ刃物が要らないかといえば、雨の日は仕事がないので、3日も降り続けば、生活費がなくなってしまうから。「ニコヨン」のところはいろいろな応用バージョンで聞いたことがあるのでは?


技術評論者
\2980

 読者諸氏もパソコンを使ってるとすれば、表計算ソフト『Excel』のお世話になっていることと思います。
 表計算だけにとどまらない奥の深さを持っていますが、最近ではマニュアルもついていない(「ヘルプ」で十分ということか。しかし、マニュアルがあっても、使う側にとって便利かというと、これも迷路のように見えたりもします)ので、あれこれの機能について調べたい、わからない時に、知ってる人に聞けばいい! のですが、いなかったり、忙しそうだったり(やっぱり知らなかったり)します。
 そこで、エクセル入門、簡単エクセル、などという表題の本を揃えたりするのですが、これが値が張る割りに、わかったようなわからないような。そのような試行錯誤の末にたどりついたのが、本書であります。全900ページ余、厚さ53o。出版元は、ソフトウェア開発者の世界では定評の高い老舗の技術評論社。
 奇をてらわず、ていねいで良心的な説明、具体例も親切。フルカラー版。座右の書としておいて決して後悔しないでしょう。
 目立たず控えめでありながら、まさかの時に助けになる、人で言えば「真の友」。えっ?、「友などとなれなれしい、聖なる書、バイブルであるぞ」。はい、大変失礼をいたしました。


岩波文庫

\800

 ずいぶんと古い本じゃないか?ほかに文庫本ででてるぞ、それに、こちらは値段も高い!ジュール・ヴェルヌだけえこひいきだ!
 ハイ、そのとおりであります。でも、岩波文庫の新刊(新訳)であることはまちがいない。値については、何が違うのか?これは、断然、挿絵の有無であります。原書の豪華本版のものでありましょう、臨場感あふれる魅力的な絵、これだけでも海の神秘に浸れるのでありますから、安いものです。「かぐや」が月周回の旅にでておりますが、宇宙と並んで、海もまた、未知の広大な世界として残っているのですから、二読三読しても汲めども尽きせぬ感激が味わえようというものです。なぞの船長ネモ、深海を自由に駆ける潜水艦ノーチラス(オウムガイ、カイダコ)。ネモ船長は今も生きている! かもしれません。
 本当に読んだのだろうな?斜め読みとか、解説だけとか?それとも、ずいぶんヒマってことか?
 め、めっそうもございません。確かに読んでます、ハイ。仕事の糧でございますからね。古今東西の雑学、雑文学にふれていてこその、この仕事であります。まッ、学問・純文学にははるかに遠いことを認めるのはやぶさかではありませんが。
 いるんだよな、世の中には、中身なんかかかわりなく、活字さえ並んでいればいいってのが。一種の中毒のようなやつが。
 いえいえ、決してそんなことはございませんよ。ただ、睡眠薬がわりになってることはよくありますが。ハイ、『地底旅行』もいい睡眠薬ですよ。


岩波新書 
\1000

 星はすばる、望遠鏡もすばる。ハッブルの写真も楽しいが、ハワイのすばるも大活躍です。
 野辺山の電波望遠鏡を作ったリーダーの著者が、請われて、ハワイに世界最高の光学望遠鏡を建設し観測を始めるまでを(始めたあとの成果も)綴った本です。カラー版ですので、観測した銀河や惑星状星雲(何のことかわかるかな?)の写真には見とれてしまいます。
 すばる実現の関係者の本もすでに何冊か出ていて、大変面白いのですが、本書は満を持して出版されただけあって、簡潔かつ圧巻。表紙の青はそのまますばる望遠鏡のカラー、すばるブルーとしゃれています。
 環境保護のネイティブ・ハワイアンからハワイでの望遠鏡建設反対運動もあった(ある)ことも初めて聞く話です。その後、天文教育センターの開所式で、ともに挨拶し、反対派の代表から「天文学とハワイの伝統文化は、共同していかなければならない。それを今日、私ははじめて実感しました」との話に、会場がしんとして聞き入ったエピソードも紹介されています。
 400億円をかけた計画を、「広く社会に知らせ、理解してもらいながら進め」たいとの著者と関係者の思いと取組みがよくわかる本。本書ももちろんその一環。星の話だけにとどまらない、秋の夜長にふさわしい一冊。

2003.8 29号以前の紹介図書
2005.6 49号以前の紹介図書
2006.1 56号以前の紹介図書
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