大人になると時間があっという間に過ぎ去っていく。子供のような感受性も失っていく。ときには忙しい時間から解放されて、ゆっくりした時の流れの中で生きてみたいものである。
詩人の心持ちで生きてみれば、毎朝、花や草木を眺めては、小さないのちが懸命に生きていることを感じ、丘に寝転がり大空を眺めては、雲に誘われてどこか遠い街に行ってみたいと夢心地になり、夕陽に輝く積みわらを眺めては、大気の光と影が刻々と変化していくさまに時の経つのも忘れるだろう。
谷川俊太郎が作った『春に』という詩がある。合唱曲になって学校合唱コンクールの人気曲になっている。若者が大地のエネルギーを吸い上げ、それがこころのダムにせき止められ、喜びと悲しみ、いらだちとやすらぎ、憧れと怒りなど相反する気持ちがこころの中で渦巻く様子を歌っている。
風景や生き物は少しずつ変化していく。しかし何十年も経つと以前住んでいた町並みや住人もすっかり変わってしまい、人生の無常を感じないわけにはいかない。今度の震災はそんな変化を一瞬のうちにもたらした。その光景を目の当たりにして、この毎日のありふれた日常も一瞬たりとも同じじゃない、二度と戻らない貴重な時間だということを切実に感じる。
私という人間を包んでいるこの空間、この時間、そしてすべての生き物がいとおしく思う。一期一会という茶道の奥義はそんな心持ちを表しているのだろうか?
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