ピアノの小曲。ブーニンがショパンコンクールで絶賛の第一位となった後、来日初公演を行なった。FMで生中継があり、ラジオで聞いていた。彼はまだ若く、確か19歳だった。ワルシャワでのコンクールの様子がNHKテレビで放送され、圧倒的な迫力で、日本の特に若い女性をひきつけ、「ブーニン現象」とも呼ばれていた。ブーニンをきっかけにクラシックを聞くようになった人も多いだろう。(私もそのひとりだ)
さて、静まりかえった会場で、演奏が始まる。・・・ところが、信じられないようなミスタッチや、リズムが聞こえてきて、会場がざわめいた。第一部は、散々だった。ガチガチに緊張した姿が見えるようだった。
打ちのめされ、大きな衝撃だったであろう。
第二部が始まる。どうなることか、固唾を飲む。演奏されたのが「ベルガマスク組曲」。思わずラジオに耳を澄ませ、聞き入った。『パスピエ』は初めて出会う曲。お気に入りとなった。
ブーニンは、その後、何年か日本に住み、日本女性と結婚したそうだ。ドイツに在住しているとか、いや日本だとか。若い頃のとはまた違った円熟した演奏をしている。日本デビュー時の失敗は、今は一エピソードだ。その後、どこかでこの曲を演奏しただろうか。もう一度聞いてみたい。しかし、あの時の『パスピエ』は生涯一度きりの、神の手による演奏だったような気もする。
「ベルガマスク組曲」中の『月の光』はおなじみ。
「パスピエ」・・・ブルターニュ地方の農民の踊り。17世紀フランス宮廷で流行した陽気な舞曲、と言うことである。
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