師走になると各地で第九の演奏会が行われる。12月2日には今年30回になる「1万人の第九」演奏会が大阪城ホールと東北仙台を結んで行われた。
合唱参加者は3か月にわたり初心者は12回、経験者は6回のレッスンを受ける。12回クラスでは3回、6回クラスでは2回欠席で参加資格を失うというから厳しい。リハーサルも絶対参加が条件。そんな苦労をしてまで参加したくなる合唱の魅力を探ろうと私も第九演奏会に足を運ぶことにした。
12月8日6時半開演。演奏は戦後すぐに創設され地方オーケストラの草分けである群馬交響楽団。指揮は湯浅卓雄、それに4名の独唱者。
以上がプロで合唱はアマチュア。地元の館林第九合唱団を中心に足利、桐生などの応援合唱団。毎週木曜夜に2時間の練習を行い、この演奏会も今年で27回目を迎える。
最初に山田耕筰の「序曲二長調」、軽い前菜を頂いているような感じ。
そしていよいよ第九の演奏の始まりだ。弦楽器の不安定な音の断片から、徐々に音量が増し、全楽器がいっぱいに鳴り響く。これぞオーケストラの醍醐味。
レコードやCDで何度となく聴いているので他のオーケストラと比べてしまうが、こんな地方都市で、しかもチケット代3千円でこれ程レベルの高い演奏が聴けるのである。しかも生の演奏は格別。特にチェロやコントラバスの低音の響きが心地よい。 第2楽章が終わると合唱団と独唱者が入場。そして天国的な美しさを持つ第3楽章のアダージョが始まる。レコードで聴いていた頃はこの楽章の途中で片面が終わってしまうのが残念だった。CDの規格が片面74分になったのはこの第九を1枚に収めるためだったという。
そして、途切れなく第4楽章のプレストに入った。指揮者の機敏な動きに合わせてオーケストラが切れ味鋭い音を響かせる。合唱団の男性パートは年配の方が多い中、学生や若い人も数名いる。男女あわせて100名くらいだが声量は圧倒的で1万人の大合唱団にも負けてはいない。
演奏が終わったとき手が痛くなるほど拍手をした。楽器が弾けなくてもこんな至高の演奏に参加できるとは羨ましい限りである。
チケット代の数倍の満足感に浸りながら星空の下、寒い風の中を帰るとき、自分もいつかこの合唱団に参加できたらという気持ちにもなっていた。

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