音楽散歩 第17楽章 『美しく青きドナウ』
作曲 : ヨハン・シュトラウス                                 2013年1月号
竹太郎

 
 バブル絶頂期にノイローゼのサラリーマンが鉄道自殺を企てた。幸い電車の急ブレーキが間に合った。その男は電車に乗り合わせていた旅人に優しく諭され元気を取り戻す。何にも拘束されず自由気ままに生きているその旅人にすっかり懐いてしまい、念願のウィーン旅行にその旅人を誘うのだが・・・これは御存じ「男はつらいよ」の話である。
 この作品の脚本家は柴又の江戸川とウィーンを流れるドナウ川がだぶったのだろうか。それにしても寅さんと音楽の都ウィーンではどうみても不釣り合いである。
 元旦恒例のニューイヤーコンサートのライブ放送を見た。世界最高のウィーンフィルが演奏するワルツを正装した観客達が由緒あるホールで鑑賞している様はクラシック音楽というものの一面をよく表している。ハプスブルク家が贅を尽くして建てた宮殿や美術、音楽といった文化遺産がウィーンという町の魅力なのである。
 一方で、オーストリアという国は19世紀になると相次いで帝国主義戦争に敗れ領土を失っていき、今のような小国になった。永世中立国で様々な国際機関の本部がある。国際原子力機関(IAEA)の本部がウィーンにあるというのに原子力発電所を国民投票の結果放棄してしまったというのも興味深い。
 ニューイヤーコンサートのアンコールで必ず演奏されるヨハン・シュトラウスの「美しく青きドナウ」は戦争に敗れた国民を元気付けるために作曲されたという。
 国破れて山河あり。戦争に負けて平和と美しい自然との共生の道を選択したオーストリア国民がなんだか羨ましい昨今である。

                   

第18楽章へ
ぽぽろしんぶんTOP ⇒