心の中の南アフリカ C 『自由への長い道』 2007年1月号
H.I.
 チャップリンに『ニューヨークの王様』というのがあります。王様の母国である日、革命が起きて、ニューヨークまで侍従をともなって、チャプリン扮する王様が亡命してくるわけです。王宮に、押しかけてくる群集が、王家の財産を差し押さえようときてみたものの、もぬけの殻。王様は、原子力の平和利用の設計図を持ち出して、それを売り込もうと目論んでいるのですが・・・
 それは、映画での話。南アフリカでは、王族の息子は英国の植民地だった母国で、弁護士になるも、黒人の解放運動に関わると、まさに大逆罪、国家転覆のテロリスト扱いとなって、逮捕され、獄につながれて不遇の身をかこつ事27年!いつ闇から闇に葬られるかわからない過酷な獄中体験を強いられます。それをユーモアをまじえながら綴ったのが、ネルソン・マンデラ(元南アフリカ大統領)の『自由への長い道』。南アに行くとき、近くの図書館からNHK出版の日本語訳の上下本を借りて持って行ったまではいいが、結局、旅行中にその本を開けることはなく、重量感あるお守りに徹した次第ではありました。ヨハネスブルグの空港の書店などには、英語本が平積みされていました。
 マンデラ氏は新生南アフリカのシンボル。人種を超えて、国の統合の象徴として、さまざまなところに、その足跡を記念した記念碑等があるのでした。(本人はたぶんそういうことは望んでなかったでしょうが)

 全人種参加の選挙が実現し、マンデラ率いるアフリカ民族会議(ANC)が政権について、和解のなかで国の再建に懸命に取り組んできたのですが、負の遺産からの脱却は一朝一夕にはできない課題のようです。南ア第一の経済都市ヨハネスブルクは、周辺国からの不法移民の流入など、治安が悪化し「ゴーストタウンです」と言われ、高速道路から垣間見ただけで、観光に立ち入ることはできませんでした。ビルが林立し、立派な都市のように見えるのですが、「近くに行ってみると、窓ガラスは割れ、廃墟同然です。昼間でも、通りを歩いたりすれば、襲われます。人間サファリです。」とガイドさん。中心部からは企業もオフィスも退去して、郊外に移ってしまったそうです。
 首都プレトリアのホテルでの宿泊でも危険とのことで外出は禁止。代わりに、蜂起でも有名となった黒人居住区ソウェトへのツアーが組まれました。スラム街を想像して行ったところは、今は300万人が住む一大都市で、ANC政権になっても、永く住みなれた人はコミュニティーを離れたがらず、電気や水道も整備して、一戸建ての住宅を建設していって、かつてのスラムは暮らしやすい街へと変わってきたとのこと。他の都市の周辺の「タウンシップ」と呼ばれるスラム街は、まだその面影を残しているところもありながらも、電線が引かれ、テレビもみることができるようになっているとか。なんとか最低限の生活を保障できるようにと、政府も必死のようです。
 そうした努力の一方では、南部アフリカのエイズ感染者は全世界の患者4000万人中の2600万人を占め、この地帯の平均寿命はかつて57歳だったのが、現在は46歳に低下し、2010年の予想寿命はなんと、40歳になるだろうという深刻な状況もあります。経済的な損失も甚大です。
 しかし、大きな困難をかかえながらも、民主主義のもとで、希望を持って一歩一歩国づくりを進め、肌の色の違いを超えて、人々が力をあわせていることが感じられました。2010年サッカーワールドカップの機会にでも、南アフリカ再発見の旅もいいかなと考えるこの頃です。


     ソウェトの露天売り場





  ケープタウン郊外で---学校帰り?
  こどもたち





  ヨハネスブルク---
  見た目は立派な都市だが
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