紹介図書
・ 秘密の武器 フリオ・コンタサル 2012.10 113号
・ 寅さんとイエス 米田彰男 2012.09 112号
・ 噺家の手ぬぐい 五明樓玉の輔 2012.08 111号
・ アップルのデザイン 日経デザイン 2012.07 110号
・ マヤ文明 青山和夫 2012.06 109号
・ 日本の税金 三木 義一 2012.04 107号
・ 落語家はなぜ噺を忘れないのか 柳家 花縁 2012.03 106号
・ おれのおばさん
佐川 光晴 2012.02 105号
・ ご当地駅そば劇場 鈴木 弘毅 2012.01 104号
・ 宇宙ヨットで太陽系を旅しよう 森 治 2011.12 103号
・ 日本の秘湯 日本秘湯を守る会 2011.11 102号
・ 下町ロケット 池井戸 潤 2011.10 101号

岩波文庫
780円+税

 30年ほど前に国書刊行会から出版された翻訳の文庫化。原書発表は1959年、半世紀前となる。短編集であり、「母の手紙」「女中勤め」「悪魔の涎」「追い求める男」「秘密の武器」の5編が収められている。
 何気ない日常生活の中に陰がさし、現実がゆがんで見え、過去が現在と混じりあってしまう不条理な(または幻想の)世界を見せてくれる。死んだはずの兄が行くという母からの手紙が届き、忘れていた過去がよみがえり、ブエノスアイレスからパリの駅に本人が降り立ったように見え・・・(「母の手紙」)
 訳者木村栄一氏は、中南米の小説を多数翻訳していて、『ラテンアメリカ十大小説』(岩波新書)を著し、コルタサルの「石蹴り」などボルヘス、マルケス、リョッサなどの代表作を紹介している。
 図書館からコンタサルを数冊と『十大小説』のアストゥリアス『大統領閣下』を借りる。いもづるなのである。そういえば、ジャガイモは南米アンデス原産だ。

筑摩書房
1700円+税
 「聖なる無用性」を軸に、困っている人がいれば放っておけないフーテンのトラこと、車寅次郎は、現代のイエス・キリストと言えるのではないか?イエスもまた、故郷を捨てたフーテン。大いに飲み食いし周りを笑わせた、楽しい人間ではなかったのか?ユーモアと比喩、語りの達人たる二人をまな板に載せた異色の書。
 聖書と映画『男はつらいよ』全48作、『薔薇の名前』『ダビンチ・コード』、トマス・アクィナスまでも参照しながらマジメに探求(?)してみた本である。
 ともに、おそらくは税金も払っていなく、「皇帝のものは皇帝に、神のものは神に」との言葉も、実はローマへの税とユダヤの神殿税に対する答え、税を取り立てながら自分の懐に入れる権力者への痛烈な皮肉であったのだと紹介しております。
 思えば、寅のアリアと称せられる、一幅のドラマのような一人語りは、すべての人を惹きつけてしまう説教であるのかもしれませぬ。「例えば日暮れ時、農家の畦道を一人で歩いていると考えてごらん。庭先にりんどうの花が咲き乱れている農家の茶の間。明りが明々と点いて、父親と母親がいて、子供がいて、賑やかに夕飯を食べている。これが、本当の人間の生活というものじゃないのかね。君!」
 そして、いろいろな人間の苦悩を知りながらも、「沈黙」(遠藤周作)で応える事しかできないことがままある神・・・神もつらいよ。
 著者はドミニコ会のカトリックの司祭さん。
 旅先で本を目にとめ、寅さんは言うだろうか、「司祭さんもヒマだね〜」




日東書院
1500円+税
懐から取り出して、時には札入れとなり、ある時には手紙となり、煙草入れともなり、扇子と並んで、手ぬぐいは噺家の二大必須アイテムのひとつ。落語では変化自在の大活躍をするのである。また挨拶・答礼にも重宝するとあって、落語家・芸人の思いいれも深いが、一方では大いに遊び心を発揮もしている。故人も含めて300本余りを集めて紹介した本書は、粋な日本文化の紹介でもある。
 8代目正蔵(彦六)門下の、キが二つで「林」、縦横4本線で「八」→ヤ→「屋」で林家。「ヒ」+「コ」を○で囲み→林家彦丸。花緑(かろく)師匠は、牡丹の柄が「花」の文字(よく見てみよう)。手ぬぐいの地は緑色。よって、「花緑」。なかなかやるでしょう?



日経BP社
1800円+税
 「あなたは残りの人生を子供たちに砂糖水を売って過ごすのですか?」ペプシの社長ジョン・スカリーのアップル社転職の決断を促して、ジョブズがこう言ったというのは有名なエピソードだ。グラフィカルな初代マッキントッシュPCが売り出される頃、アップルの会長として野心に溢れ、自信満々の頃のジョブス、30歳目前の1983年である。ところが次第に2人の意見は異なるようになり、ついに創業者であるジョブズがアップルを追放されてしまう。1985年9月13日である。「いつまでもアップルのことを忘れないだろう」の言葉を残して。
 しかし、ジョブズなき後のアップルは次第に混迷し、スカリー、スピンドラー、アメリオ、とトップは変わり、サンなどへの身売り話まで出るようになり、1997年、劇的なジョブズ復帰。iMac、iPod、iPhoneへとアップル復活と成功へとつながっていったのが第二幕である。
 ステーブ・ジョブズが作り出した「世界」について、共に仕事をした関係者が、デザインという切り口から、その魅力を語るのが本書である。
 「デザインというのは奇妙な言葉で、どう見えるのかということだと考える人がいる。しかし、もっと深く考えると、実際にはどう機能するかだ」
 「毎日見るものなんだぞ!ちょっとしたことじゃない。ちゃんとやらなきゃいけないことなんだ」
 ジョブズは亡くなったが、その言葉は今も生きている。



岩波新書
800円+税
 1〜2万年前の氷河期、現在より海面が100mほども低かった時期、陸続きとなっていたベーリング海峡を渡って、日本人と共通祖先のモンゴロイドたちがアメリカ大陸へと旅立ち、わずか1000年の間に、南アメリカ南端のフエゴ島まで到達したらしい。その後、南にはマチュ・ピチュで知られるアンデス文明・インカ帝国が、中米には高度な数学と天文学のマヤとアステカの文明が興っている。
 1986年に青年海外協力隊の考古学隊員として「たまたま」中米ホンジュラスに派遣されたのをきっかけに、マヤ文明に魅せられ、現地で発掘調査と研究にあたってきた著者が、自身の体験も含めたマヤ文明の実像と、その魅力を伝える。
 旧来の四大文明史観に代え、旧大陸と交流することなく一次文明を独自に形成した中米・南米を含めた「世界六大文明」として再把握が必要と説く。
 紀元前1000年から神殿を築き始め、その後文字とゼロも発見した数学と暦など、鉄器は持たなかったが、最高度に洗練された石器文明のマヤ。現代化されながら、今もマヤ族に受け継がれている生きている文化であることを伝えている。

マヤの暦の日付。
左上は13、右上は0、
右上から3番目は4、
左下は8を現す形が含まれている

岩波新書
800円+税
 なぜ「税金を取られる」と思うのだろう、と著者は問う。
 確かに昔は王が、あるいは支配者が取り立てるのが税金だった。しかし、現代の普通選挙の下での民主主義のルールに従えば、税制も、国民の多数者の意見で決めていくことになる。「選挙民の圧倒的多数は中低所得者層なので、富裕層に適切な負担を求め、所得の再分配を通じて、低所得者の生活を保障し、安定した社会をめざすはずである」のに、違う。それは、日本国民の大多数にとっては、政府は自分たちのものとは感じられず、いまだに「お上」だからであろう。
政府が信頼されてはじめて、税は「預ける」ものになる、と著者は述べる。
 折りしも、消費税問題が焦点となっている。1%上げれば3%の税収増となる誘惑と、低所得者層に負担の大きい逆進性。消費税が派遣労働を促進してしまう危険も指摘している。
 富裕層の国境を利用した租税回避により、民主主義の多数決原理が脅威にさらされている、と述べ、国際的な金融取引に課税する「トービン税」(通貨取引税)も紹介し、国際社会が協力する新しい課税システムが課題ではないかとしている。応能負担の原則と、問題を抱える現実の税制を解説した好著。表題の印象と違い、具体例で税の身近さを実感し一気に読んでしまう。

角川SSC新書
800円+税
 実は忘れたりしているのです。花緑師匠も、ガマの油の口上で失敗して、高座から一度降りて、もう一度登場からやり直したことがあるそうです。絶句したままとなり、落語人生を辞めてしまった噺家(8代目桂文楽)もいます。一方、間違いなど何事もなかったかのように噺をまとめる名人もいて。花緑師匠は145本のネタがあり、いつでもOKは24本、数度さらえば高座にかけられる72本。作り直し要の49本とのこと。
 台詞を覚えるだけではだめ。「ストーリーテラー兼演出家」として、大きな努力もし、切磋琢磨している落語家という職業の緊張感とやりがいを述べた、花緑師匠の落語論。小三治師匠の厳しい忠告に背筋が伸びる。

集英社
1200円+税
 「いい本だった、お勧めだ」。知人から評判を聞いた。
 東京のエリート中学に通う主人公が、ふと狂ってしまった家庭の事情から、札幌の養護施設に暮らすことになってしまう。10人余りが暮らす市中心部に近い施設は、長年付き合いのなかった、母の姉、威勢のいいおばが取り仕切っていた。それぞれに過酷ともいえる事情をかかえる少年・少女たちとの共同生活。
 見知らぬ土地の中学生との緊張する関係の中で起こる事件と和解。
 周囲の声などものともせず、自分の人生を切り開いてきたおばは、医学部中退で、芝居に人生をささげたこともあるバツイチ。どうして施設の経営がなりたっているのか不思議に思う主人公。おばの生き方に惹かれ、応援する人たちと出会う中で触れる、人間の弱さと力。清冽な人生賛歌。
 知人は、佐川光晴の他の作品へと触手を伸ばしているようだ。

交通新聞社新書
 仕事の関係で各地に出張に行く時があるが、ちょっと小腹がすいた時に必ず食するのが『駅そば』である。それほどの『そば好き』にとってかかせないのがこの本である。
 北は北海道から南は九州までの駅そばを30年に渡って食べ歩いた著者が、おすすめの『ご当地の駅そば』を多彩な資料を駆使して紹介している。
 馬肉・にしん・ふぐ・ジュンサイ等、地方によって、こんなものをそばに入れるのか、びっくりすることが沢山紹介されている。これだけでも食べるためだけに行ってみたくなる。
 ちなみに、私のお勧めは、はんぺんそば(JR熱海駅)、桜えびそば(JR三島駅)である。行く機会がありましたら、是非どうぞ。
          (柴山正人)

岩波ジュニア文庫
\820+税
 SF作家アーサー・C・クラークが『太陽からの風』で、太陽光を帆に受けて進む宇宙船のレースを描いてましたが、その夢を世界で初めて実証したのが、昨年、金星に向け打ち上げられた『あかつき』に同乗した『イカロス』。折紙からヒントを得て折りたたまれた一辺14mの薄膜を宇宙空間で展開することに成功し、光圧での加速、反射光を制御しての回転と、ミッションを次々クリアして、今も飛び続けてます。
 劇的な『はやぶさ』帰還に続いて、小さいながらも独創的な技術のソーラーセイルを成功させたチームリーダーが語る夢は、次はイオンエンジンと組合わせたソーラーセイル船で木星をめざすこと。

日本秘湯を守る会
\850+送料¥310
 いわゆる観光地でなく、ひなびた、または静かな一軒宿の温泉を求める人向けのガイドブック。知る人ぞ知る「日本秘湯を守る会」の会員温泉宿を網羅した話題の書。
 1986年、美坂哲男『日本百名湯』(山と渓谷社)という名著が出版されているが、絶版となって久しい。『新、日本百名湯』も待ち望まれるところである。
 1ページに一宿。写真、交通手段、料金、簡にして要の紹介文。194軒の温泉中には、何度か訪ねた懐かしい湯もいくつかある。ただし、この書は本屋には置いてない。希望者は「日本秘湯を守る会」ホームページの案内に従い、郵便振込で申込みのこと。

小学館
\1785
 東京は大田区、町工場の並ぶ下町の中小企業が、大企業などなんぼのもんじゃいと大活躍の痛快小説。
 儲けさえすれば何やってもいいとの悪徳企業や、特許技術がほしいのに大きな顔の大会社。悪人たちも渋い。主人公、佃社長に反旗を翻す社員たち。手に汗握る結末は?
2003.8 29号以前の紹介図書
2005.6 49号以前の紹介図書
2006.1 56号以前の紹介図書
2007.7  74号以前の図書紹介
2008.11 87号以前の図書紹介
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