紹介図書
・ 職業外伝 紅の巻 秋山 真志 2012.11 114号
・ 無常という力 玄侑 宗久 2012.12 115号
・ 東慶寺花だより 井上 ひさし 2013.1 116号
・ 最果てアーケード 小川 洋子 2013.5 117号
・ ティンホイッスル 中江 有里 2013.6 118号

角川書店
¥1400+税
 主人公の職業はどんなのがあるかと思い浮かべてみれば、医者、銀行員、バーのマスター、刑事、学生、専業主婦、作家、タクシードライバー、倉庫作業員、等々なんでもありのようですが、プログラマーなんてのはまだ出会ったことがない。アメリカ映画の中ではハッカーなんてのがたびたび登場してるのですが。
 中江有里、女優で作家。TVの司会も。
 主人公藍子は芸能事務所に勤める、女優のマネージャーだが、黒子役。
 真のヒロインは、言葉が不自由で笛で気持ちを伝える小さな娘と暮らす元女優の佐藤愛。偶然、地元の映画のロケでエキストラ出演することになるが、主演女優みさきの失踪騒ぎに巻き込まれる。みさきのマネージャー藍子は窮地にたたされるが、昔、まだ少女の愛に、一度だけ会ったことがあるのを思い出す。

文芸春秋
¥1500+税
 「原稿零枚日記」を書いてはいても、やっぱりどこかで原稿ができているのです。最近は『ことり』もでました。コトリと音がするのかと思ったら、小鳥でした。
 さて、今回は、にぎやかな通りからは取り残されたような、よく見ないと見過ごしてしまう古い小さな(半分は風化した)アーケード。両側には、こんなものを買いに来るお客さんがいるのかという不思議な店が何軒か並び、奥の広場は、周りをビルの壁に取り囲まれて行き止まり。その陽だまりのテーブルと椅子では何人かがお茶で集う。
 衣装屋さんが縫うのは、舞台衣装だけ。それも使われることがない。義眼屋さんは剥製とか人形用の義眼のみ。アーケードで生まれ育った少女は、火事で父を亡くして。

文芸春秋
¥1619+税
 東慶寺は、北鎌倉の禅寺。江戸時代まで数百年の間、離縁したい女性の駆け込み寺として有名な尼寺だったという。女性に離縁の自由がなかった時代に、寺の保護を受け2年間を過ごせば、男は離縁状を書かねばならず、女は晴れて自由の身になることができた(のだそうです)。
 明治の頃に尼寺ではなくなる。西田幾多郎、岩波茂雄、高見順、堀田善衛などの墓が並んでいる(ホームページによると)。
 さて時は江戸時代(1800年頃か)、東慶寺前の3軒の宿のひとつに居候して滑稽本の作者目ざす若者あり。名を信次郎。
 江戸で医学の修行、医術の心得もある。滑稽本は最初の一作のみで、後が書けない。宿の八つになるお美代という、勝手に信次郎の嫁になると決めている娘が話をねだりに来るのみである。
 戯作者の夢をあきらめて江戸に帰ろうと歩く夜明け時、事情ありげな女に出会って、東慶寺まで見送ることに(「梅の章 おせん」)。結局、宿に戻り、次々に縁切りの女たちの事件に関わって、ついには男立ち入り禁止の寺内で、医者代理として手当てもすることになって。桜、花菖蒲と咲く花が変わる中で、寺に暮す女性達、宿の主人・番頭夫婦、お美代、追う男達のさまざまな人間模様が織られてゆく。

新潮社
¥1100+税


方丈の生活復元図
出典:小泉和子
イラスト:中西立太
「方丈(草庵)の生活」
『週刊朝日百科日本の歴史5』
学芸出版社『住まいの文化』HP
 「古京はすでに荒れて、新都はいまだ成らず・・地を失ひて憂ふ」フクシマにあって、「無常とは・・・安定を崩し・・・一歩を踏みだす積極的な行動のことでもある」としるした書。
 原発事故の福島在住の玄侑宗久師。震災後どんな本も読めなかったが、まず吉村昭氏、それから『方丈記』に読み耽り、講演に向かう車中で読み進むうち、気がつくと落涙していた。「それからわたしは『方丈記』を何度読み返したことだろう」。
 鴨長明『方丈記』。書となって800年という。
 成功せず、50歳半ばを過ぎ、晩年を迎える頃に、乏しい蓄えで移動式の一丈四方(3m四方)の小屋を、京の近くの山中に建てる。「いはば旅人の一夜の宿をつくり、老いたる蚕の繭を営むがごとし」「広さはわづかに方丈」。『方丈記』を著す。
 「ゆく河の流れは絶えずして・・・かつ消えかつ結びて・・・世の中にある人とすみかと、又かくのごとし」と、大地震、大火、飢饉、政治の混乱と無能という当時の(つまりはこの十数年の日本を思い浮かべずにいられない)時代と人の生活を記したのである。
 文庫本の大活字でも、30ページほど。意外なほど短い文章だ。6畳程の空間でどんな生活ができるのか? 後半部で詳細にかつ簡潔に描写。原文に列挙された内容だけでは衣食住は満たせないので、たぶんこんな内部空間だっただろうと考察したのが、別図(生活復元図)。東にかまど。図にないが、「南にかけひあり」と水を引いてある。
 「世にしたがへば、身くるし。したがはねば、狂せるに似たり」と隠遁し、四季を楽しむかに見えながらも、薪を集め食物を探す手足を召使とし、苦しくなれば休めばいいと、厳しい日々をユーモアに包み、悟りに至らぬ自分を自覚して「不請の阿弥陀仏、両三遍申してやみぬ」と念仏も二三回となえて良しとしているのである。

ポプラ文庫
\680+税
  2006年に出版本の文庫版。紅・白の2巻がある。白の巻には、イタコ、蝋人形師、チンドン屋などが紹介されている。マイナーな(希少な)職業、もしくはアングラ的な仕事に就いている人物像をインタービューによって構成しているのである。
 さて紅の巻。紙芝居屋とか入墨師とか興味深い仕事師たちも出てくる中に寄席関係の2人が登場。一人は俗曲師、三味線の桧山うめ吉(女性)。バレリーナと看護師志望が、ある日、芸の世界に目覚め、国立劇場の「寄席囃子研修制度」に応募。難関をクリアし二年の研修後、念願の寄席のお囃子になる。
 さらには、周りに勧められ、裏方でなく俗曲師として寄席にデビューすることに。最初は緊張の連続だったが、今では海外公演もする人気者に。寄席に出るとパッと雰囲気が華やぐのである。俗曲師、日本で10人ほどとか。
 次なるは寄席の経営者、席亭。北村幾夫。末廣亭三代目席亭になった1999年当時は寄席もどん底。奥さんと力をあわせ、老朽化した椅子とトイレを改修。土台も補強して、東日本大震災にも耐えた。一日平均の客数220人程。出演者メンバー決定から、窓口受付、裏方の仕事は全てこなして、年間2日の休み以外は開場。貸しビルのほうが収入がいいのだがとも。
2003.8 29号以前の紹介図書
2005.6 49号以前の紹介図書
2006.1 56号以前の紹介図書
2007.7  74号以前の図書紹介
2008.11 87号以前の図書紹介
2011.10 100号以前の図書紹介
2012.1  113号以前の図書紹介
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